残業が無くならない理由とは? 残業発生のメカニズムは上司が握る

上司が部下の負担をかぶっている

なぜ残業はなくならないのか――その理由を探るべく、株式会社パーソル総合研究所は、東京大学の中原淳准教授とともに、「希望の残業学プロジェクト」と題した共同研究を実施。その一環として、さまざまな業界・業種の会社員6,000人(メンバー層5,000人、上司層1,000人)を対象とした残業実態調査を行い、結果を発表した。調査の結果、月に30時間以上残業する人の割合が多い業種・職種は、以下の通りとなった。

【メンバー層・業種】
1位:運輸・郵便業(37.7%)、2位:情報通信業(32.1%)、3位:電気・ガス・熱供給・水道業(32.1%)
【メンバー層・職種】
1位:配送・物流(46.8%)、2位:商品開発・研究(41.5%)、3位:IT技術・クリエイティブ職(39.0%)

【上司層・業種】
1位:建設業(54.2%)、2位:製造業(51.7%)、3位:運輸・郵便業(50.0%)
【上司層・職種】
1位:商品開発・研究(65.2%)、2位:専門職種(61.9%)、3位:生産・管理・製造(56.1%)

上司層は、複数の業種で繁忙期の月平均残業時間が50時間を超えるなど、メンバー層よりもさらに過酷な勤務実態が明らかとなっている。このような実態に対して中原教授は「上司が部下の負担をかぶって残業が増えているとみられる」と指摘した。

残業の特徴は、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」

いまだ多くの企業で常態化している長時間労働を是正するためには、残業が発生するメカニズムをきちんと把握することが欠かせない。そこで同プロジェクトが、残業が発生する職場の特徴を分析したところ、残業は「集中」して、「感染」し、「麻痺」させて、「遺伝」するという特徴があることが明らかになった。

●集中:スキルの高い従業員や上司層に残業が集中する
60.4%の上司が「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」と回答しており、ホワイトカラーを個人スキル(文章作成・読解力、指示・説明力等)で低層と高層に分類して残業時間を比べた場合、高層のほうが長時間となっている。中原氏は「部下の優秀さを基準にしたジョブアサインが習慣化すると、残業の集中はその部下が疲弊するまで続くだろう」と指摘。また、残業削減施策に取り組む企業の上司ほど、この1~2年で「部下に残業を頼みにくくなった」「仕事を自宅に持ち帰ることが増えた」と感じる傾向が強くなっており、残業を減らす取り組みが、かえって上司の負担を増加させる結果につながっていることがわかった。

●感染:職場内の同調圧力により、帰りにくい雰囲気が蔓延
組織特性・風土に関する調査では、「周りの人がまだ働いていると、帰りにくい雰囲気」が残業増加に最も影響を与え、組織内に存在する同調圧力が無駄な残業を生む要因になっていることがわかった。また、こうした帰りにくい雰囲気は、若い世代ほど強く感じる傾向にあり、20代男性と50代男性では1.9倍の差があった。さらに、帰りにくさは上司の残業時間に応じて急激に増すことも明らかになっており、中原教授は「上司の残業は本人だけでなく部下の負担も増やしている」と述べた。

●麻痺:価値・意識・行動の不整合が生じ、健康リスクや休職リスクが高まる
残業時間が長くなるにつれて幸福度は下がるが、残業時間が月60時間を超えると逆に幸福度は上昇する。さらに、会社への満足度やワークエンゲージメントも同様に、「残業月60時間」のラインを超えると上昇に転じていることがわかった。中原教授は「その一方で、正常な判断や論理的な一貫性を失っている」と指摘。「残業月60時間以上層」と「残業なし層」と比較してみると、前者は「食欲がない」が2.3倍、「強いストレスを感じる」は1.6倍、「重篤な病気・疾患がある」が1.9倍となっている。これらのことから、残業月60時間以上層には「幸福度は高いが、食欲がなく病気がち」「ワークエンゲージメントは高いが、休みたい・眠りたい」という矛盾が起こり、同プロジェクトはこの状態を「麻痺」と表現する。この状態に陥った人は、自覚症状が薄いまま病気や精神疾患にかかったり、突然の休職につながったりするリスクがある。

●遺伝:上司の長時間労働の習慣が世代と組織をまたいで受け継がれる
上司が若い頃に長時間の残業を経験していると、部下の残業時間が長くなりやすい。また、新卒時に入社した会社で当たり前のように残業し、終電近くまで働くことが多かった上司は、転職後も、部下を長時間残業させる傾向が強いという。つまり残業体質は世代と組織を超えて受け継がれるということだ。また、このような上司は、転職後も「優秀な部下に優先して仕事を割り振る」「時間をかけて仕事をする部下を評価する」といった傾向があり、部下の長時間労働を助長することがわかった。

「たくさん働くほど成長する」という考え方から脱却すべき

中原教授は、残業の弊害の中でも、特に個人の成長が妨げられている点を問題視。「残業月60時間以上層は、フィードバックや職場外学習の機会などが得られない傾向も高くなっている」と指摘した。発生メカニズムを踏まえた残業削減施策として、プロジェクトでは、「麻痺」発生防止と、「集中」「感染」の是正を、両輪で進めるべきだと提言。特に後者は、マネジメントや組織風土の改革、報酬・評価制度の変革によって、職場の生産性を向上させるものであり、極めて重要だ。

残業の集中を是正するためには、優秀さを基準としたジョブアサインから脱却し、個人のスキルを底上げするような、人材育成が求められる。さらに、残業の遺伝を是正するためには、「たくさん働くほど成長する」という日本ならではの考え方を見直す必要があるだろう。中原教授は「働く時間が長いほど仕事の能力が上がるというのは俗説。長時間労働よりも、フィードバックや振り返りの時間を確保したほうが、人材育成の効果は大きく、中長期的な残業抑制にもつながるだろう」と語った。

「人生100年時代」が到来し、シニアになっても生き生きと元気に働く人が、今後ますます増えていくだろう。となれば、働き方も持続可能なものへと変えていかなければならない。中原教授は最後に、働くことを陸上競技に例え、「昔は『中距離走』だったが、今は『長距離走(=長期間労働)』の時代に突入している。完走するためには、長時間労働を是正して、走り続けることができる働き方をしなければならない」と締めくくった。

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